「人質外交」を展開する中国 中国で人が消えていく

人権
2019年5月8日、バンクーバーの裁判所に出廷するため、自宅をでる中国大手情報機器メーカー・華為科技(ファーウェイ)CFOの孟晩舟氏(Getty Images)

2018年12月、中国ファーウェイ社の孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)が詐欺容疑で、カナダで拘束された後、カナダ人元外交官と起業家が中国で逮捕された。
孟副会長は、米国の要請を受けたカナダ当局に逮捕され、その後米国で起訴された。米国の対イラン制裁を逃れるため、金融機関に虚偽の説明をした銀行詐欺などの罪に問われていた。

ニューヨーク共同によると、米司法省は9月24日、孟晩舟被告(49)が「責任を認めた」として起訴効力を停止する司法取引が成立したと発表した。カナダ西部バンクーバーの裁判所は同日、出国を認める決定をし、カナダ民放CTVは、副会長がバンクーバー国際空港から中国に向け出国したと報じた。

大紀元によると、カナダで逮捕された中国通信機器大手・ファーウェイの孟晩舟副会長の釈放と引き換えに、中国で3年間拘束されていた2人のカナダ人が9月24日、解放された。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)9月27日付によると、中国では現在、少なくとも115人のカナダ人が拘束されているという。

中国が展開する「人質外交」について、時事ドットコムにノンフィクション作家・譚ろみ氏の記事があったので、内容を追加して紹介したい。

中国で人が消えていく、日本人も台湾の人たちも

2021年2月、カナダ、日本、米国、欧州連合(EU)加盟国など58カ国は「国家間の関係における恣意的な拘束に反対する宣言」に署名した。「人質外交」を展開する中国への警告と、国際社会に人権擁護を再確認させるためである。発端は2018年12月、中国ファーウェイ社の孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)が詐欺容疑で、カナダで拘束された後、カナダ人元外交官と起業家が中国で逮捕された事件だ。2020年8月には、オーストラリア政府が中国に新型コロナウイルス感染症の初動調査を勧告すると、中国中央テレビで働く中国系オーストラリア人キャスターが拘束され、国家秘密漏洩罪で起訴された。

・時事ドットコムhttps://www.jiji.com/amp/article?k=2021122400609&g=int

中国国営テレビの豪州人キャスター、中国で拘束

判然としない逮捕理由

日本人も例外ではなく、地質調査会社社員が中国で拘束され、さらに大学教授、商社員、語学学校経営者など15人が拘束され、7人が「スパイ罪」で服役中だ。

中国拘束の8邦人全員起訴 地質調査の2人も(産経新聞電子版)

北海道教育大学の元教授で中国籍の袁克勤氏が里帰り中に失踪した事件では、2021年5月、2年ぶりに逮捕・起訴されていた事実が発覚した。

中国人も次々に消えていく。大物政治家をはじめ、富豪、女優、弁護士、ジャーナリスト、国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)総裁まで、理由が判然としないまま逮捕され、世間から消えた。

台湾人の失踪事件はさらに多く、根が深い

中国と台湾の雪解けは08年5月、台湾で国民党の馬英九政権が誕生し、親中外交を進めた時だ。

中国は経済交流を推奨し、税制優遇や各種手続きの簡素化を約束したため、中国へ進出した台湾企業は10万社に上り、中国在住の台湾出身者は100万人に達し、観光目的の往来などは毎年約500万人に上った。

ある日突然に警察が

だが数年後、状況は一変した。

中国では、ある日突然、地元の警察がやって来て、脱税や各種違反を口実に合弁企業の台湾人オーナーを拘束し、合弁パートナーである中国企業に所有権を渡すよう強要した。

もし拒否すれば何カ月でも勾留し、承諾すれば国外退去にするという。地方政府と公安警察、合弁パートナーの中国企業が結託した所業だった。

16年5月に台湾に民進党の蔡英文政権が誕生して後、これら企業オーナーを含めて、中国で失踪した台湾人は149人に上り、101人が拘留中などで所在が確認されたが、48人はいまだ消息不明だ。

台湾人を中国に引き渡し

現在、世界中で台湾人が消えている。スペインの人権団体「セーフガード・ディフェンダーズ」は、16年から19年の間に、海外で逮捕された台湾人600人以上が中国に強制送還されたと報告した。

台湾人を中国に引き渡した国は、最多のスペインが219人、カンボジア117人、フィリピン79人、アルメニア78人、マレーシア53人、ケニア45人と続く。

その多くは、中国政府が「友好関係」を呼び掛けて引き取り、「国内問題」として中国本土へ送還した人々だ。

中国は「一つの中国」政策の下、中国と外交関係を結びたい国には援助し、台湾との断交を迫って、台湾を国際社会から孤立させようとしている。

中国政府によって次々に消えていく台湾の人々は、保護されるべき「国家」を失い、国際社会からも支援を受けられない。国際政治の「落とし穴」にスッポリはまり込んでしまったままのようだ。

台湾人600人以上が中国に送還――犯罪人引渡し条約の政治利用とは