ネット上の有害なコンテンツから、いかにして子どもたちを守るのか――。英国議会で「オンライン安全法案」が議会を通過した。SNSやウェブサイトの運営者に強い自主規制を求め、企業幹部の刑事責任追及もありうるものだ。法案策定を大きく後押ししたのは、14歳の少女の自死だった。
子どもをネット上の有害情報から守る法律「オンライン安全法」 英国議会を通過
TBSテレビ(2023年9月20日)によると、インターネット上の有害な情報から子どもを守るため、18歳未満の未成年が自殺や暴力を助長する情報などを見られなくするよう、サイトやSNSの運営会社に義務づける「オンライン安全法案」が9月19日、英国議会を通過した。
この法律は運営会社に対して利用者の年齢確認を厳格化し、18歳未満には有害な情報を見せずに、13歳未満にはアカウントを持たせないことを義務づけるものだ。
規制の対象は性暴力やヘイトクライムなどの違法行為に関する情報のほか、自殺や自傷行為、暴力などを助長する情報まで含まれ、違反した場合、運営会社は日本円で最大およそ33億円か、売り上げの10%のうち高い方を罰金として科される。
英国では2017年、当時14歳だったモリー・ラッセルさんがSNSで自傷行為に関連した投稿を大量に見たあと自ら命を絶ち、規制を求める声が強まっていた。
モリーさんの遺族や友人らで作る基金は、SNSで「オンラインの危険に対処するための極めて重要な第一歩。若者がアルゴリズムによって命を脅かす可能性のある情報を氾濫させないようにする必要がある」と投稿した。
英国政府はモリーさんの死後、ネット上の有害コンテンツから子どもたちを守る「オンライン安全法案」の議論を加速させてきた。
法案は、ソーシャルメディアを含むウェブサイトの運営者に対し、児童の性的搾取や虐待、自殺やテロ、薬物関連といった有害なコンテンツが子どもたちの目に触れないような取り組みを求めている。
違反した場合、企業幹部に最長2年の禁錮刑を科すこともありうる。議会での審議は9月19日に終わり、チャールズ国王が署名すれば、法律になる。
14歳の少女の自死、検視当局「オンラインコンテンツの悪影響」指摘
2017年11月、英ロンドン近郊に住むイアン・ラッセルさん(60)の三女、モリーさんは14歳で自ら命を絶った。死後2週間が経ち、警察から手書きのメモを渡された。そこには、愛情深い家庭で育ったことがつづられる一方、「時々、すべてが手に負えなくなる」「なぜ落ち込むのか、自分でもわからない」といった苦悩や、自傷行為をやめられないつらさが記されていた。
では、なぜそうした「うつ状態」とも言える状態に陥っていたのか。ラッセルさんは、13歳の誕生日に買ってあげていたiPhoneを確認した。ソーシャルメディアのアカウントも見た。すると、モリーさんがインスタグラムなどで、不安やうつ、自傷行為や自死に関するコンテンツを目にしていたことがわかった。
モリーさんは亡くなるまでの半年で、1万6300件のインスタ投稿に「いいね」を押し、そのうち2100件が自死や自傷行為、うつ病に関する投稿だった。それは後に、死因を調べる英国の手続き「死因尋問」で明らかになった。
モリーさんの死から約5年後の2022年秋、検視当局は死因を調べる「死因尋問」を終えた。モリーさんが当時、うつ状態になっており、「オンラインコンテンツの悪影響」に苦しんで亡くなったと結論づけた。
日本では514人の児童・生徒が自死
英国では毎年、200人前後の児童・生徒が自ら命を絶っている。
英マンチェスター大は、14~16年に自ら命を絶った10~19歳の595人のうち、544人のネットの接続記録を調査した。24%にあたる128人が自死に関連したコンテンツをオンラインで閲覧したり、投稿したりしていたという。ただ、これはあくまでも記録で確認された割合にすぎず、実際にはもっと高い可能性があるという。
厚生労働省によると、日本では昨年(2022年)、小中高校生の514人が自死によって亡くなっており、統計がある1980年以降、最も多い結果となった。
【引用記事】
・14歳の娘はなぜ亡くなったのか スマホとSNSに残された手がかり(朝日デジタル、2023年9月23日)
・「インスタが娘を…」答えを探した父、努力は法律となって結実へ(朝日デジタル、2023年9月23日)
健全なインターネット空間を提供― Ganjing World(乾浄世界)
児童の性的搾取や虐待、自殺やテロ、薬物関連といった有害なコンテンツが子どもたちの目に触れないような取り組みを、ソーシャルメディアを含むウェブサイトの運営者に対して求めても、限界がある。
ならば、最初から子どもたちに、有害コンテンツを排し、健全なインターネット空間を提供できれば、悲しい結末を回避できるのではないだろうか。
2022年8月、そのような目的で、動画プラットフォーム「Ganjing World(乾浄世界、清らかな世界の意味)」が米国で公開され、急速な広がりを見せている。
Ganjing World(乾浄世界)は、既にフランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語、ベトナム語、韓国語のプラットフォームを立ち上げ、今年3月15日には日本語版(ganjing.com/ja-JP)も立ち上げた。
商業主義に傾倒し、利用者の依存度を高めるよう設計された既存のソーシャルメディアの代わりとして、Ganjing World(乾浄世界)が開発されたという。
Ganjing World(乾浄世界)は伝統文化への回帰と人々のモラルの向上を強調し、言論の自由を提唱している。視聴者は、有害情報の干渉やわいせつなコンテンツの氾濫を心配することなく、知識や情報を簡単に見つけることができる。また、個人データが収集されたり、漏洩したりする心配もない。
近年、大手メディアプラットフォームにおける政治的検閲はますます厳しくなっている。しかし、Ganjing Worldが他と違うのは、コンテンツが暴力、ポルノ、犯罪、麻薬、社会的害悪に関する内容でない限り、創作者は自分のチャンネルで生活、成果、観点などを共有し、自由に情報を発信することができ、検閲やブロックされることを心配する必要はないという。