英情報部、「中国工作員」が議会で暗躍と異例の警告

人権

英情報局保安部(MI5)は、中国の工作員とみられる人物が献金を通じて英国の議会に食い込み、政治に介入しているとする、異例の警告を発した。

 

ロイターによると、英情報局保安部(MI5)は13日、中国共産党が英議員への不適切な影響力行使を狙い、代理人の女性を雇っていたと警告する文書を下院に送付した。

MI5が送付したのはクリスチャン・リーという名の女性の写真と警告文。英政治に「干渉する活動」に関与していたとしている。リンジー・ホイル下院議長が警告を議員に回覧した。

ホイル氏によると、MI5は女性が「香港と中国に拠点を置く外国籍の人々」の代理として現職議員らへの献金を手助けしたとみている。ホイル氏は、女性が現在は解散している超党派議員グループ「チャイニーズ・イン・ブリテン」に関わっていたと語った。

パテル内相は記者団に対し、現状では女性の行動は刑事訴追の範囲には達していないと述べた。ただ、政府が警告を出すことで、女性の不適切な影響力の試みについて議員に知らせることができるとも語り、中国共産党の代理で働く個人が英議員を標的にすることを「深く懸念している」とも述べた。

下院議員や野党党首らに献金

野党労働党のバリー・ガーディナー下院議員は、同氏事務所の調査員費用として女性から何十万ポンドかの献金を受け取ったことを認めたが、女性のことでは何年も情報機関当局に連絡していたとした。ガーディナー氏は女性の息子を事務所で雇っていたが、息子は13日付で辞めた。

BBCによると、リー氏は労働党の国会議員、バリー・ガーディナー氏に対して、42万ポンド以上の政治資金を提供した。野党・自由民主党の党首エド・デービー議員にも、過去5000ポンドの資金を寄付した。デービッド・キャメロン元首相を含めて、リー氏は保守党の政治家とも良い関係を築いてきたという。

深く懸念

プリティ・パテル内相は、「中国共産党の代わりに政治干渉活動に従事していることを承知のうえで、国会議員を標的にした」人物がいることを「深く懸念している」とした。

一方で、英国には「外国の干渉を特定する」ための措置があると述べた。

MI5はリー氏からコンタクトがあった人は、「同氏の属性」と、「中国共産党のアジェンダを推進するための同氏の権限」に「留意」する必要があるとした。

労働党のイヴェット・クーパー影の内相は、「我々は英国の民主的プロセスに介入しようとする中国の試みを、最も強い言葉で非難する」と述べた。

また、労働党が「欺瞞(ぎまん)や干渉の程度と、外国からの有害な活動による継続的リスク」について、内務省やMI5からのさらなる情報を求めていると明らかにした。

クーパー氏は、全ての下院議員と同僚は、安全保障上のリスクと、干渉から身を守る方法について、MI5から最新情報を得なければならないと付け加えた。

国外追放の要求も

保守党のダンカンスミス元党首はMI5の警告について言及し、「重大な懸念事項」だとし、リー氏を国外追放するよう求めていた。

スミス氏と、下院国防委員会のトバイアス・エルウッド委員長は、下院で声明を出すよう政府に要求した。「このようなグレーゾーンの干渉が起こること我々は予測しているし、中国がそうしたことを行うと思っている」と、エルウッドは付け加えた。

「しかし、この議会でそうしたことが起きたという事実に、政府は危機感を持たなければならない」

また、リー氏がまだ国外退去させられていないことを批判し、英議会へのアクセスを得ようとする人々の認証手続きの厳格化も要求した。

 

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秘密裏に連携

MI5の警告によると、リー氏は英議会への関与について、「英国在住の中国人を代表し、多様性を高める」ためだったと主張した。

しかし、MI5は同氏の活動について、「中国共産党の統一戦線工作部(UFWD)と秘密裏に連携し、中国と香港にいる外国人から資金提供を受けて実施されたもの」だと指摘した。

UFWDは英国の政治情勢が中国共産党に有利になるように、「影響力のある人物」と「関係を深める」ことを目指し、同党に対して人権問題などの懸念を示す人物に対処しようとしているとされる。

MI5はリー氏について、現在は解散している超党派の議員連盟「Chinese in Britain」など、「英政界の幅広い個人らと関与」していたとしている。

また、リー氏が「中国共産党のアジェンダを推進するために超党派議連の設立を目指している可能性がある」と警告した。

中国は否定

ロンドンの中国大使館は13日、ウェブサイトに声明を発表した。MI5について、英国の中国人コミュニティーを「中傷、威嚇」していると非難した。

中国外務省の汪文斌報道官は、英国の人気スパイ映画「007」シリーズを挙げて「英国の一部は007の映画を見過ぎだ。不必要な連想が多い」と発言。「中国は他国の内政に対し、不干渉の原則を一貫してとっている」と主張した。

 

政府当局者によると、女性は法律事務所の創立者。法律事務所のウェブサイトによると、在英の中国大使館への法的助言などを業務内容に挙げている。事務所はロンドンとバーミンガムにある。当局への届け出書類によると、女性は英国籍。ロイターがバーミンガム事務所に電話したところ、出た女性は「われわれは電話対応を一切していない」と述べた。ロンドン事務所と中国の在英大使館はコメント要請に応じていない。

【引用記事】
https://jp.reuters.com/article/britain-china-spying-idJPKBN2JO05K
https://www.bbc.com/japanese/59975872