ロシアのウクライナ侵攻後、海外のSNSを舞台に、中国国内で発信されている過激な言論を英語などに翻訳して広める「大翻訳運動」が進行中だ。翻訳対象は中国のSNSでの投稿のほか、中国メディアの報道にも及び、ウクライナ問題に限らず対米批判の文章なども取り上げているという。
この動きは中国共産党(中共)にとっては厄介だ。理由の1つに、国内外で中共政権が2つの顔を使い分けているためだ。国外向け英語コンテンツは平和かつ国際協力的な表現で比較的穏健な姿勢に徹する一方、国内向けの中国語メッセージは親ロシア・反ウクライナ、台湾への威嚇など、暴力的で、ナショナリズムの色を強めていることも多い。
中国メディア関係者は「国営メディアは大翻訳運動を警戒している」と指摘する。翻訳対象は中国で報道されたもので、「捏造(ねつぞう)」と切り捨てられないからだ。国内向けのプロパガンダが中国の対外イメージに打撃を与えている形だ。
大翻訳運動、中共の本音を全世界に発信
米国のソーシャルメディア「Reddit」の中国語コミュニティ「衝浪TV」が最近発起した「大翻訳運動」は、西側における中共の偽情報作成の実態に迫っている。
この運動は中共の急所を突いた。そのため中共は先日、ウクライナ支援をする「大翻訳運動」の海外サイトへの攻撃を開始した。
大翻訳運動とは、2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻後に発起したネット上の運動で、主に中国語サイトの世論を外国語に翻訳し、中国共産党の真の立場を世界に伝えることを目的としている。
同運動の参加者と支援者は、微博やbilibili、知乎、抖音(TikTok)などの中国サイトに掲載されているロシアを支持しウクライナを侮蔑するコメント、写真、動画を、英語、日本語、韓国語などの外国語に翻訳して、海外のサイトに転載し議論している。目的は中共の政治姿勢を世界に知らせ、中共の対外プロパガンダに騙されないようにするためだ。
中共は現在、これらのサイトに対して様々な攻撃を仕掛けている。海外の中国語ネット掲示板「品葱」の管理人・陸さん(仮名)は、大紀元記者の取材に対し、同サイトは大翻訳運動の発起人ではなく、中共はまずツイッターと海外ソーシャルメディアプラットフォームRedditをターゲットにしていると語った。また、品葱は昔から中共の目の敵とされており、大翻訳運動に携わっていない時でも常に攻撃を受けていると言う。
陸さんによると、「品葱は毎日数千の悪意あるIPから攻撃を受けており、衝浪TVが故意に停止させられた後、品葱は通常のトラフィックの数百倍の攻撃を受けた。また、中国にいる同サイトのメンテナンススタッフの1人が4カ月以上行方不明になっている。このスタッフが中共に逮捕された可能性が高いと推測している」という。
品葱では、ロシアとウクライナの戦争勃発後、ホームページに「大翻訳運動」のコーナーを設け、「運動エリアのルール」を発表し、ユーザーの安全を確保しながら、海外に向けてスクリーンショットを転送することを推奨している。
中国共産党による大量の洗脳プロパガンダの文言は、様々な言語に翻訳され、海外に拡散され、中共に恐怖を与えており、中共官営メディアは最近、この運動を中傷する記事を掲載した。
環球時報は3月20日、傘下のWeChat公式アカウント「補壹刀」の長文を転載し、「大翻訳運動」を「中国に対する悪質な中傷行動」と表現し、ロシア・ウクライナ紛争から日中、中韓の論争テーマにまで広げ、「これらの国の人々の中国に対するマイナス感情を扇動する」ためであると指摘した。
中国問題専門家の夏一凡氏は、中共がこの運動を禁止したとしても、中共が小粉紅(中共寄りの民族主義者)と戦狼と共謀している事実は全世界に知られていると大紀元記者に語っている。逆に、禁止すればするほど、中共の「タキトゥスの罠」効果は多くの人に影響を与えるとのことだ。
「タキトゥスの罠」とは、政府部門や組織が信用を失うと、本当のことを言っても嘘を言っても、良いことをしても悪いことをしても、嘘を言っている、悪いことをしていると認識されてしまうということだ。
在米中国問題専門家・唐靖遠氏は大紀元の取材に対し、「『大翻訳運動』は、中共の対内プロパガンダや五毛党(わずかなお金をもらって中共政府のために発言する人)および小粉紅の扇動的な内容を海外向けに翻訳しており、対内プロパガンダを対外プロパガンダに転化したことに等しい」と指摘した。これは、中共の裏の本音を世界に暴露したに等しいため、当然中共は激怒したという。つまり、大翻訳運動は、中共が操作するいわゆる「世論」の真実を暴いたのであり、それは実は偽りの世論であり、実際は中共の本音だと唐氏は述べた。
【引用記事】
・ニュース最前線 香港 https://www.youtube.com/watch?v=K56seP2VWCw
・ニュースウィーク https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/04/post-98572_1.php