看中国(2021年8月20日)によると、米国の複数の太陽光パネル企業は8月17日、米国政府の関税を回避するために、マレーシア、ベトナム、タイなどの国に工場を設立して低価格の太陽光パネルを生産している中国企業数社を調査するよう、米国連邦政府に共同で申し立てた。
米国の太陽光パネルメーカーを代表する弁護士のティム・ブライトビル氏は、「同請願書は、これら3カ国で関税を回避している特定の中国企業に関税を課すことを求めている」と述べた。
ブルームバーグ通信は、中国共産党の人権弾圧が続き、新疆ウイグル自治区での労働者虐待を取り締まる中、米国企業は中国側に関税の実施拡大を求めていると指摘した。E.T.カナディアン・ソーラー社は今週、「中国から輸入されるすべてのソーラーパネルが米国の税関に押収される可能性がある。なぜなら、これらのソーラーパネルの主要部品のほとんどが新疆ウイグル自治区の工場で製造されており、奴隷労働に由来する可能性が高いと言われているからだ」と指摘した。
同請願書では、中国共産党が強制労働を行い、また悪意を持って関税を逃れていることから、この関税を、中国企業が東南アジアに建設した工場の製品にも拡大するよう求めるべきだとしている。
関連ニュースが伝えられた後、8月17日には、一部の大手ソーラーパネルメーカーの株価が下落した。投資顧問会社ハイト・キャピタル・マーケッツのアナリストであるベンジャミン・ソールズベリー氏は、今後数週間のうちに調査が開始され、新たな関税制裁につながる可能性があると述べた。
ウイグルの強制労働疑惑、太陽光パネル関連工場でも浮上 ⇒ 国内企業の対応は?
ハフポスト(2021年7月1日)によると、米国は6月24日、「労働者に対する脅迫や移動の制限が確認された」と人権侵害を指摘し、中国企業「合盛硅業(Hoshine Silicon Industry)」から太陽光パネルの部品となるシリコンの輸入を禁止すると発表した。
「米中対立による経済制裁」との見方があるが、多結晶シリコンは、新疆だけで世界の半分近い生産能力を持つとされる。日本政府は太陽光発電などを活用した「2050年カーボンニュートラル」を掲げたばかりで、専門家は脱炭素に向けた道のりへの影響を指摘する。
日本の太陽光パネルの部品も、多くは中国で生産されている。
民間調査会社「資源総合システム」によると、2020年の多結晶シリコンの生産能力は、中国が年間42万トンで、世界で75%のシェアを占めている。このうち、新疆ウイグル自治区に工場をもつ中国メーカー4社の生産能力は計26.7万トン。つまり、新疆だけで世界の48%の生産能力を持つことになる。
一般社団法人「太陽光発電協会」が、日本に拠点を持つメーカー29社を調べたところ、国内向けの太陽光パネルの出荷量(2020年度)は512万キロワット分に上った。このうち8割強が中国など海外で生産されているという。
専門家は脱炭素への影響を指摘
キヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹は、「アメリカで問題視されたら、日本が何もしないという訳にはいかない。ただ、部品の輸入元を中国から切り替えた瞬間、太陽光発電の価格は跳ね上がる。そうなれば、日本の脱炭素に向けた計画は近い段階で変更を迫られ、企業と政府は温暖化対策の再検討を求められるだろう」と指摘する。
さらに「ウイグルの人権問題はアメリカが指摘する前に、日本として真剣に考えないといけない。世界の太陽光発電は事実上、中国頼みだが、時間をかけてでも別のサプライチェーンを構築するべきではないか。太陽光発電で二酸化炭素さえ減らせばいいという話ではない。企業にも高い人権意識が求められ、自分たちのリスクだと思って考えて欲しい」と訴えている。