台湾総統選 一票を投じた法輪功の男性 香港での体験語る

人権

国立政治大学の大学院に通う余以澄さんは、政治に興味がなく、誰が総統になっても同じだと考えていたが、昨年4月に香港に行った際「一国二制度は守られていない。香港は完全に中国の管理下になった」と感じたことがきっかけで、人生で初めて台湾の総統選で投票した。

 


【産経新聞 2020年1月16日】

 11日に行われた台湾の総統選で国立政治大学の大学院に通う余以澄さん(24)は人生で初めて投票した。4年前の総統選のときは投票権があったが棄権した。もともと台湾の政治にあまり興味がなく、誰が総統になっても同じと考えていたからだ。

しかし、昨年4月、ある体験をきっかけに意識が変わった。「台湾の自由と民主主義を守らなければ」との危機感が高まり、投票所に足を運び、与党・民主進歩党の現職、蔡英文氏に一票を入れた。蔡氏が史上最多得票の約817万票で圧勝した結果について「私と同じ考えを持つ人がたくさんいて安心した」と笑みがこぼれた。
 余さんは母親の影響で幼いときから中国の伝統的な健康法の気功に興味を持ち、その修練法の一つである法輪功を学び始めた。今も大学の法輪功サークルの中心メンバーとして活躍している。
 法輪功とは、吉林省出身の李洪志氏が1990年代初めに創始した気功修練法で、たちまち影響力を広げた。中国当局の推測によれば、98年時点で中国国内だけで約7千万人の学習者がいた。共産党内や軍内にも学習者が急増し、危機感を覚えた共産党政権は99年に「法輪功」を邪教と定め、弾圧を始めた。各地で法輪功学習者が相次いで拘束・逮捕され、拷問や虐待を受けたケースは少なくない。
 中国当局による法輪功の弾圧は多くの国際組織や人権団体から批判された。余さんら台湾の法輪功学習者も定期的に香港に赴き、抗議活動を行ってきた。
中国と一国二制度を実施している香港では、法輪功学習者たちの活動は制限されないことになっている。しかし近年、警察当局の締め付けは厳しくなっているとの印象を受けたという。
 昨年4月27日、いつも通りに香港に向かった余さんは、入国手続きをしようとしたところ別室に連行された。その後、数十人の法輪功学習者が1カ所に集められ、「香港に入ることを認めない。これから強制送還する」とだけ告げられた。周りに多くの警察官が待機し、強く抗議すればすぐに拘束する構えを見せた。それまで香港の警察官に対して特に悪い印象はなかったが、あのときはとても怖く感じた。「一国二制度は守られていない。香港は完全に中国の管理下になった」とも思ったという。
 そして、中国は昨年から「一国二制度による台湾問題の解決」をしきりに言うようになった。台湾の野党・中国国民党は中国を受け入れる姿勢を示しており、国民党政権が誕生する可能性を考えるだけで恐ろしくなったという。
 「今回の総統選は、民主政治と独裁政治の争いだった。民主政治の勝利に貢献できてうれしい」と余さんは話した。