中国人民解放軍がコロナ治療薬として期待される「アビガン」の用途特許を取得

時事
アビガン(提供:富士フィルム)、日経バイオテクより

抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」は新型コロナにも効果が認められるとして、中国の人民解放軍が「用途特許」を出願、同国の国家知識産権局(CNIPA)が特許を認めたことが5月27日、デイリー新潮の取材で分かったという。

デイリー新潮によると、特許に詳しい関係者が「中国のCNIPAは3月29日付でアビガンに関する『用途特許』を認めました」と明かにしたとのこと。さらに、「中国国内で特許が成立したことは、中国語の文書で公告されています。人民解放軍が特許を申請するというのは極めて異例。いずれにしても、中国国内の話にとどまるとは思えず、人民解放軍は世界各国で特許の権利を行使できるよう動いているはずです」
さらに「人民解放軍による用途特許が世界で認められたなら、当然ながら日本にも影響が及ぶ。最悪のシナリオとして、日本国内で新型コロナの治療にアビガンを使おうとしても、人民解放軍の“許可”が必要という事態になりかねない」と言う。

アビガンとは?

アビガン(一般名:ファビピラビル)は、富山化学工業(現・富士フイルム富山化学)が1997年から研究を開始した。2006年、米国立アレルギー感染症研究所が鳥インフルエンザにアビガンが有効と発表。14年に条件付きながら抗インフルエンザウイルス薬として日本国内で承認された。

その後もエボラ出血熱で効果が認められるなどしており、コロナ禍でも注目を集めている。新型コロナの治療薬としてインドネシアなどで緊急使用が認められているほか、カナダでも治験が行われている。

用途特許ー中国の巧妙な手口?

新しく開発された薬、飲食物、化学物質などの権利を守るのが「物質特許」である。富士フイルム富山化学も、アビガンに関する物質特許を取得していたが、20年間の有効期間が満了したとして、19年に物質特許が失効した。そのため中国では、アビガンのジェネリック医薬品が製造されているという。この物質特許に対し、新しく発見された“使い道”の権利を守るのが「用途特許」になる。

特許の世界には、特許協力条約(PCT)に基づく国際出願という制度がある。ある発明に対して特許権を付与するかどうかは、世界各国がそれぞれの法律に基づいて判断しているのだが、グローバル経済の進展などを背景に、多くの国で一度に特許を取得したいというニーズが高まったことでPCT国際出願は生まれた。

日本もPCTに加盟している。つまり、人民解放軍が統一願書を使ってアビガンの用途特許を申請した場合、日本を含み、150か国以上のPCT加盟国で国内申請と同様に扱われるかもしれない。人民解放軍は国家の意思を体現し、『アビガンを新型コロナの治療に使うという特許の許諾が欲しければ、中国の言うことを聞け』と要求してくる可能性があるといえる。

日本:コロナ治療薬として「アビガン」の新たな臨床試験を開始

読売新聞電子版(2021年4月21日)によると、富士フイルムは4月21日、新型コロナウイルス感染症の治療薬として承認申請を行い、厚生労働省が継続審議とした抗ウイルス薬「アビガン」について、新たな臨床試験を始めたと発表した。アビガンは、子会社の富士フイルム富山化学が開発した新型インフルエンザ治療薬。新型コロナ治療薬として、昨年10月に承認申請を行ったが、厚労省の審議会は昨年12月、その時点の臨床試験の結果などでは判断できないとして、継続審議としていた。新たな臨床試験は、4月20日に開始、10月末まで行い、患者約300人のデータを集めるという。

【引用記事】
デイリー新潮「中国人民解放軍がコロナ治療薬として期待される「アビガン」の特許を取得 巧妙な手口に日本の関係者は危機感」2021年5月27日