米議会下院は8日、人権侵害を理由に中国新疆ウイグル自治区からの輸入を全面的に禁止する「ウイグル強制労働防止法案」を賛成428、反対1で可決した。
これまで米政府のウイグル関連の制裁対象は特定の企業や品目に限定されていたが、新法は全面的な禁止を求めるものだ。今後、上院通過とバイデン大統領の署名を経て成立する。
法案は、同自治区の輸出品すべてが「強制労働のもとで生産された」と仮定する厳しい内容となった。輸入企業に「強制労働によるものではない」との証明を義務付けるほか、強制労働を助長している海外の団体や個人に対し、制裁を科すよう大統領に要求する。
さらに国務長官には、法案成立から90日以内に、新疆ウイグル自治区のウイグル人や少数民族に対する強制労働やその他の人権侵害が「組織的かつ広範に行われており、人道に対する罪や大量虐殺に該当するかどうか」の判断を下すよう求めている。
上院は7月に同様の法案を全会一致で可決しており、上下両院は早期成立に向けて調整する見通しだ。
ペロシ下院議長は採決前の記者会見で「中国共産党はウイグル族を含む少数民族に対し、投獄や拷問、強制労働などの残虐な弾圧を行っている」と指摘。「米国が商業利益のために中国の人権侵害に声を挙げないのであれば、人権に声を上げる道徳的な権限を失うことになる」と法案の意義を強調した。
中共による強制労働の残酷な実態は、ウイグルだけに留まらない。悪名高い馬三家労働教養所で法輪功学習者が受けていた迫害の実態を暴露した映画「馬三家からの手紙」(2018制作)が世界中の人々を震撼させた。この物語は、米オレゴン州に住む女性ジュリー・キースがスーパーで購入した「中国製」のハロウィーンの飾りの箱に忍び込まれたSOSの手紙を見つけるところから始まる。
主人公の孫毅は中国、北京のエンジニア。1997年に法輪功(気功)を始める。1999年に当時の国家主席・江沢民の嫉妬により法輪功が禁止され、過酷な弾圧を受けるようになる。当局によるプロパガンダに関する情報を伝えようとしていたところ拘束され、北京五輪の期間には悪名高い馬三家労働教養所に送り込まれ、拷問を受け生死をさまよう。
孫毅は苦しい日々のなかで、馬三家で米国向けの輸出品となる玩具を作っていることを知り、発見されれば厳罰に処されるリスクを覚悟で、馬三家の実態を告発する英語の手紙を玩具のなかに忍ばせる決意をした。
孫毅は、いつか誰かに届くことを願いつつ、監視の目を盗んでベッドの中で告発の手紙をつづった。
孫毅が書いたSOSの手紙が、米オレゴン州のスーパーマーケットに辿り着き、CNN、ニューヨーク・タイムズのトップニュース報道もあった。強制労働教養制度は司法手続き無しで、反体制派などを1年から数年の長期にわたって収監でき、かねてから「手続きが不透明」「実態がわからない」などの理由で事実上の強制収容所として国際的な批判が集まっていたが、孫毅が告発した手紙の反響もあって2013年に廃止された。
これを受けて孫毅は、中共による法輪功への迫害の実態を暴露する映画を制作することを決意した。拷問や強制労働の実態を精密なアニメ画に描き、妻や家族が当局の圧力に苦しむ日々を記録した。
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衝撃のドキュメンタリー映画「馬三家からの手紙」
映像の多くが、主人公である孫毅の撮影とスケッチをもとにしており、主人公の視点で描かれた異例のドキュメンタリーとなった。当局の圧力に屈せずに完成した映画は、想像を絶する実態が明らかにされ、世界中の映画祭で評価され数々の賞を受賞。2018年9月からNHK「BS世界のドキュメンタリー」で、再放送を含め6回も放映された衝撃の作品でもある。
しかし、強制労働教養制度は廃止されたとは言え、強制収容所は閉鎖されるどころか、今なお中共が法輪功やウイグル族を含む少数民族に対し、投獄や拷問、強制労働などの残虐な弾圧を行っていると海外でも問題になり、米国が「商業利益のために中国の人権侵害に声を挙げないのであれば、人権に声を上げる道徳的な権限を失うことになる」といって今回の「ウイグル強制労働防止法案」の可決に至った。
共産党支配下の中国においては、国全体が大きな収容所のようなものだ。中国で自由、基本的人権の尊重、法の支配が保障されるためには、関係各国と連携し、国際的な仕組みづくりが必要である。