NEWSポストセブン(2020年9月2日)によると、ニューヨークの国連本部で8月24日、国際海洋法裁判所の裁判官選挙が行われ、中国政府が推薦した段潔竜・駐ハンガリー中国大使ら7人の裁判官が当選した。新任裁判官の任期は9年で、今年10月1日より就任する。
段氏の立候補については、米国務省のデービッド・スティルウェル国務次官補(東アジア・太平洋担当)が7月の段階で、「中国は南シナ海などで多くの国々と領海問題を抱えており、中国の代表が裁判官になるのは、放火犯が消防士になるようなものだ」などと述べて、段氏の立候補に強く反対していた。
米政府系メディア「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」は選挙が行われた24日について、「この日の選挙は極めて敏感な時期に行われた。なぜならば、中国は南シナ海の海南島沖合の海域で大規模な実弾軍事練習を行ったほか、黄海や渤海でも同様の海軍による軍事演習を行ったからだ」などと伝えた。 そのうえで、VOAは「これは台湾を包囲する攻撃陣形であり、台湾や台湾を支持する米国を威嚇する目的がある」などと指摘するなど、批判的に報じている。
また、ポンペオ米国務長官も7月、「中国の南シナ海における領有の主張は違法である」などと強調。中国は8月、米政府の高官としては米台断交後、最もハイレベルとなるアザー厚生長官が台湾を訪問したことについて、強く反発しており、台湾周辺海域などでの軍事演習の実施を発表するなど、米中双方は非難の応酬を繰り返していた。
このようななかで、国際海洋法裁判所の裁判官選挙が行われただけに、米政府は各国政府に働きかけて、段氏の当選を阻むための工作を行ったと伝えられていた。
国際海洋法裁判所は1996年に設立。国連海洋法条約に基づき、同条約の解釈と適用を巡る争いを解決する国際的な司法機関。本部はドイツ・ハンブルクに置かれ、独立した裁判官21名で構成される。中国人ではこれまで趙理海、許光建、高之国の各氏が裁判官を務めていた。
しかし、ここ数年、中国は南シナ海のほかにも、東シナ海の沖縄県尖閣諸島周辺や朝鮮半島周辺などにも連日、艦船を派遣するなど、東南アジア諸国や日本、あるいは韓国でも反発が強まっていた。それに加え、米国の強い反発もあったことから、今回の選挙では段氏の当選を危ぶむ声も一部には出ていた。
段氏の当選後、中国外務省の趙立堅報道官は8月25日の定例記者会見で、「一部の国が私利に基づいて中国の候補者を封じ込め、抑圧しようとしていたが、それでは人心は得られない。無駄な行いだ」と述べて、暗にポンペオ氏やスティルウェル氏らの発言に強く反発するコメントを発表。ここにもみられるように、南シナ海問題をめぐる米中の対立は一層鮮明になっている。
【引用元】https://news.yahoo.co.jp/articles/d1dec803422886eb7990a7b4244d46854819ffd9