大紀元(2021年3月18日)によると、中国唯一の核兵器研究・生産機関である中国工程物理研究院(China Academy of Engineering Physics、CAEP)は、日本の複数の大学や研究機関と共同研究を行っていたことが、大紀元の調べでわかった。広島大、熊本大、原子力研究開発機構などが参加した。中国共産党政権が軍民融合政策を推進しており、日本の大学や研究所の技術はこのような共同研究を通じて中国で軍事転用される恐れがあるという。
中国の核兵器開発の製造機関、米の制裁リストに
綿陽市には、軍民融合(MCF)の実証拠点である「四川綿陽ハイテクシティ」がある。2016年、四川省軍管区司令官の姜永申氏は、中国の科学技術発展における綿陽の役割と、軍民融合(MCF)実証基地の重要性を強調した。
CAEPの主な任務は、核兵器の開発、核融合の点火や指向性エネルギー兵器のためのマイクロ波やレーザーの研究、通常兵器に関する技術の研究、軍事・民間融合の深化の4つである。物理・数学、機械・工学、材料・化学、電子・情報、光学・電気工学の幅広い分野を中心に、260の専門分野をカバーしている。
CAEPは、その業務の機密性にもかかわらず、近年、各国の学術界と連携を強化している。CAEPはこれまで、数百人の科学者を海外に派遣し、客員研究員として研究や仕事をさせているという。CAEPは、2015年までにハイレベル人材招致プログラム「千人計画」を通して、海外から57人の学者を採用したと公式ウェブサイトで発表している。
米政府は1997年に、CAEPを制裁対象に指定した。2019年、CAEPの子会社である北京高压科学研究センター(Center for High Pressure Science and Technology Advanced Research)を輸出管理規則に基づくエンティティー・リストに追加した。
CAEPの子会社10社は、昨年6月に同リストに追加された。
中国と繋がりのある科学者が共同研究のパイプ役の可能性
大紀元は、科学技術系データベースJ-GLOBALで、複数の大学や国立研究機関の科学者とCAEPの研究者が共同執筆した論文30本を確認した。論文は2003〜19年まで発表されたもの。広島大、東北大、熊本大、大阪大、東京大、長岡技術科学大学など国立7大、国立研究開発法人物質・材料研究機構、国立極地研究所、原子力研究開発機構関西光科学研究所、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構など4つの国立研究機関、および一般財団法人電力中央研究所の研究者が共著者として名を連ねた。
なかには広島大と共同執筆した研究発表(論文も含む)は7本と最多である。共著者には2018年、外国人専門家として千人計画に参加している日本人教授の名前があった。教授は中国に渡り、米政府の制裁対象でもある北京高压科学研究センターに配属された。同教授は同大とCAEPのすべての共同研究に関わった。
こうした共同研究に中国人元留学生、日本で勤務経験を持つ中国人研究者が参加している。2011年に行われた広島大との共同研究に参加した中国人留学生は広島大で博士号を取得後、中国に帰国、同じく北京高压科学研究センターに勤務した。
原子力研究開発機構関西光科学研究所がCAEPと2007年に発表した論文の第一著者は、CAEPで博士号を取得した中国人研究者。同研究者は学位を得たのち、韓国とカナダでの研究職を経て、2004〜08年まで原子力研究開発機構関西光科学研究所のプロジェクト特別招聘研究員としてプロジェクトの責任者を任された。2008年に帰国し、中国科学院物理研究所に就職した。
同論文には中国国家重点実験室であるCAEP衝撃波物理と爆轟物理実験室の関係者13人の名前が並んだ。
また、この30本の研究論文とは別に、長岡技術科学大学の中国人教授は、中国の学術誌でCAEPの研究者と23本の論文を発表した。同教授は中国人民解放軍国防科学技術大学、中国原子能科学研究院(修士課程)を卒業後、長岡技術科学大学に留学し、博士号を取得した。その後、同大で教鞭をとり現在に至る。2007年、中国理工系大学の最高峰である清華大学の海外人材プログラム「百人計画」に採用され、今も同大で研究者の育成と研究を進めている。
教授の出身大学である中国人民解放軍国防科学技術大学は、機微度の高い兵器などの開発や製造に従事する中国「国防7校」の一つに数えられている。米商務省は昨年5月、国防7校をエンティティー・リストに追加した。
日本の経済産業省が発行する外国ユーザーリストにも同大が含まれている。
日本学術振興会の交流事業にもCAEP関係者が参加
独立行政法人日本学術振興会が平成13〜22年度までの10年間にわたり、中国とプラズマ・核融合(先進核融合炉の炉心と炉工学に関する研究)をテーマに拠点大学交流事業を行った。この事業にもCAEPの関係者が参加した。
同事業の事後評価資料によると、平成22年度に開催した「第3回日中レーザーターゲット材料研究会」の中国側責任者がCAEP・レーザー核融合研究センターのTANG Y.教授だという。同年度に行った「核融合炉材料・システム設計統合に関する日中セミナー」の中国側責任者がCAEPのWANG Heyi教授と記されている。
日本学術振興会は2国間の交流事業1件につき、年間1300万~3000万円の予算を当てていた。同事業の日本側は自然科学研究機構・核融合科学研究所(NIFS)を、中国側が中国科学院等離子体物理研究所(ASIPP)をそれぞれの拠点大学とし、約60を数える日中の研究機関や大学が事業の協力機関として参加した。
「日中両国のプラズマ核融合研究を進めるほとんどすべての研究起案や組織が参加した」同事業は22年度に終了した。事後評価資料は成果として、両国の研究者は900本を超える論文を発表したこと、日本から毎年40~60人の研究者が中国へ派遣され、中国から30~70人の研究者を受け入れてきたなどを挙げた。報告書では「特に、この交流の40%が40歳以下の若手研究者であったことは重要な点である」と強調した。
中国の技術窃盗に対策を
イギリスでも、33大学がCAEPまたはその傘下組織と共同研究を進めていることを、英紙テレグラフは今月1日に報じた。英下院外交委員会のトマス・タジェンダット(Tom Tugendhat)委員長は、この事態が尋常ではないと述べ、「一部の大学は海外の協力機関への警戒心が薄い」と指摘した。
中国共産党政権は現在、民間企業が取得した外国の技術の軍事転用を進めている。米トランプ前政権は中国による技術窃盗への取り締まりに力を入れ、千人計画の参加者の摘発中国人留学生へのビザ発給の厳格化などの措置を講じた。
日本の大学と研究機関は、このような共同研究で生まれた技術が中国で軍事転用され、日本や世界の安全保障を脅かす兵器の開発に利用されていることへの警戒心が弱いとかねて指摘されてきた。技術漏洩の抜け穴にならないよう、日本は中国人留学生や研究者を受け入れる際、身元調査を行うなど対策を急ぐ必要がある。