米国際開発庁のグリック氏 インタビュー「いかにして中国依存経済から脱却するか」

時事

スリランカやジブチの港は債務不履行に陥り、最終的には中国がこの港の操業を支配することになった。中国は地政学上重要な位置にある港を見つけ出し、開発途上国であるその国にアプローチをかけ、港を乗っ取るという。米国と中国の海外援助に取り組む姿勢について、米国際開発庁のグリック氏が解説。
ほぼすべての国で港湾は軍事目的と民生目的の両方の用途を持っており、中国共産党によるこれらの港湾問題は、もはや国際援助の枠組み内にとどまらず、国の安全保障にも重大な影響を与える問題でもある。中国の「一帯一路」構想の一部だが、グリッツ氏らは、「一帯一路 解決不可能な負債への片道旅行」と呼んでいるという。

米国の海外援助に取り組む姿勢と中国の姿勢との違い

エポックタイムズ(2020年10月14日)によると、米国の海外援助に取り組む姿勢と中国の姿勢の違いに着目し、米国の観点から見た海外援助についてどのような考え方があるのか、米国際開発庁のボニー・グリック氏にインタビューした。
グリッツ氏によるとは、「一般的に海外援助に関して私たちの最終的な目標は援助そのものの必要性をなくすことです。そして、その目標を実現するために私たちができる唯一の方法は各国が自立できるように協力してあげることです。私達は各国と協力して各国が自立し、海外援助に依存せずいつの日か援助する側になるまで支援するのです」という。
彼女はまた、「米国とともに自立への道を歩んだ国の代表例として、イスラエルと韓国が挙げられます。まず、イスラエルは米国の援助の最大の受益者でしたが、今では農業、水、感染症の根絶などの分野において、我々の同盟国、特にアフリカ地域の援助国となっています。
韓国は朝鮮戦争後に米国から援助を受けた国でしたが、現在では米国からの毎年の輸入額が、米国がこれまで韓国に提供した援助の総額を上回っています。両国のような米国の最強の同盟国となった国々と一緒に歩んできた道は実に素晴らしいものでした」と述べた。

では、中国はどうでしょうか?

「開発支援に対する中国のアプローチは自立への旅とは大きく異なります。中国版の海外援助は中華人民共和国への永続的な依存を促すものです。今や援助国を名乗る中国が天然資源の豊富な国をはじめとする発展途上国の市場に参入しています。
中国政府の人が来て、このように言うのです。『おいそこの国の開発大臣、あなたの港湾施設の建設には何か援助が必要なようだが中国の開発資金で賄うべきだろう。これは契約書だ。もうすでに準備してあるので細かいところを読む必要はない。点線のところにサインして。それでなんと、年に1万回の寄港数を誇る世界クラスの港をあなたたちが持つことになるのだ。あなたの国は繁栄するだろう。』これは実際にスリランカで起きたことです。」

「スリランカでは政府がすべての細目を読まずに点線に署名しました。しかし、そこには中国から借り入れた債務を弁済することができなければ、同港は中国への99年間の租借権に基づいて引き渡されると書かれていました。その港は戦略的に重要な位置にあるのです。スリランカは年間1万回の寄港数があるという説を信じてしまいましたが、実際はその後1年間で37隻しか寄港しませんでした。スリランカはたちまち債務返済できなくなりました。そこで中国は同国最大の世界クラスの港湾を99年間租借したのです。スリランカの海運業界にとって、とんでもない災いです。中国のいわゆる対外援助の初期でも同じようなことが他の場所でも起きていました。中国はこれらを戦略的勝利として見ています。」

「また、東アフリカの小さな国ジブチでも中国が建設した港があり、ちょうど紅海の入り口に位置しています。この場所も大きな戦略的な意味を持ち米国にとっても防衛上とても重要な場所です。ところが、しばらくして、ジブチは債務不履行に陥り最終的には中国がこの港の操業を支配することになったのです。そして香港。1997年に香港が中国に返還され香港の特別な地位から、中国が西側に解放されるのではないかと考えられていました。しかし、私たちはそれがどのようにして裏切られたのかを見てきました。発展途上国にとって非常に重要なことは、中国の資金のみに頼るプロジェクトには潜在的な危険性が潜んでいることを認識することです。」

「米国と西側の援助国にも同じような支援プログラムがあります。ジョージ・ウォーカー・ブッシュ政権時に設立されたミレニアム・チャレンジ・コーポレーションという素晴らしい組織があり、開発途上国が米国の助成金を利用して重要なインフラを構築する上で非常に重要な役割を果たしてきました。これらの組織を利用するために対象国は一定の民主性と透明性の要件を満たさなければなりませんが、この助成金を受ける資格を得た国には何の縛りもなく助成金が支給され、その結果これらの国と米国との間に強い絆が築かれてきました。これらの港の問題はもはや国際援助の枠組み内にとどまらず、国の安全保障にも重大な影響を与える問題です。」

「ほぼすべての国で港湾は軍事目的と民生目的の両方の用途を持っています。そこで中国は全世界を戦略的にみて最も価値の高い港を見つけ出し、その国にアプローチするのです。過去の政策によって今一部の国がまさに返済で苦労しています。
私たちはその国々と話し合い、そして多国間融資機関でも話し合ってきました。世界銀行のデイビッド・マルパス総裁も国際金融機関のドナー国はコロナウイルスを考慮して債務削減の方法を検討していると発表しました。ところが、中国がそこで示した反応は目を疑うものでした。中国側の当初の対応は『もちろんです。私たちは皆債務免除について話すべきです』でしたが、それと同時に彼らは債務免除の対象となる条件を設定し始め、その中で中国に対する二国間債務が議論のテーブルに乗らないよう細心な注意を払っていたのです。

米国と西側諸国の大きな失敗

私たちの大きな失敗はグローバル・サプライチェーンの構築に、私たちがあまりにも中国に依存していたことです。コロナウイルスの治療薬の開発に必要な試薬もそうでしたが、それ以上に私たちは「中国が情報を透明化し、コロナウイルスの治療に必要なもの、例えばマスクやガウンなどの防護具を世界に流通させてくれる」という幻想を抱いていました。
米国で長い間議論されてきた自国回帰の背後にある考えは、製造能力や流通能力を国内で再構築することです。
一方で近隣国や同盟国について考えることも重要です。ひと昔前では、中国が世界の流通拠点だと世界がなんとなく受け入れていたためこれらのことについて考えが及びませんでしたが、今は以前の政策を見直しています。そして私たちは米国のビジネスリーダーと一緒に自国回帰のインセンティブについて検討し、あるいは少なくとも特に同盟国が強みを持つ分野において、同盟国と提携することについて模索しています。これこそが私たちがこれから進むべき道だと考えています。