チェコのミロシュ・ビストルチル上院議長ら代表団(議員や首都プラハの市長、企業関係者など)89人が30日、台湾に到着した。台湾とは国交はないが、公式訪問を通じ、関係強化を図る。チェコは中国と国交を結んでおり、憲法上、大統領に次ぐ地位の上院議長が台湾を訪問するのは初めてで、チェコのゼマン大統領やバビシュ首相は外交方針に反するなどとして、訪問に反対していた。
台湾メディアによれば、訪問団は9月4日まで滞在。ビストルチル氏は1日に立法院(国会)で講演し、3日に蔡英文総統と会談する。4日には米国の対台湾窓口機関である米国在台湾協会(AIT)とのフォーラムにも出席する。
チェコ上院は5月、今回の台湾への訪問支持を圧倒的多数で決めた。代表団は首都プラハ出発を前に「今回の台湾訪問はチェコのバツラフ・ハベル元大統領の精神を示すことだ」と強調した。
2011年に死去したハベル元大統領は1989年当時のチェコスロバキア共産政権を非暴力で倒した「ビロード革命」の立役者で、チェコの初代大統領。中国の圧力を受ける台湾の国際社会への復帰を願い、国連加盟の働きかけを行うなど台湾との関係も深かった。
ハベル氏の遺志を継ぎ、2月にヤロスラフ・クベラ前上院議長が中国の反発を振り切り、訪台予定だったが、中国大使館から脅迫され直前の1月に急逝した。今回の代表団はいったん中止となった訪台を実現した形となる。ビストルチル氏は上院議長就任後、何度も「クベラ氏の遺志を引き継ぐ」と表明していた。台湾の外交部(外務省)は「心から歓迎する」とのコメントを発表した。
今回の訪問について、中国は「1つの中国」の原則に反するとして強く反発しているが、アメリカは高く評価して支持する姿勢を示している。今月、東欧を歴訪したポンペオ米国務長官は12日、チェコ上院で演説して中国を非難し、チェコ代表団の訪台を強く支持した。アザー米厚生長官も、米国の閣僚として6年ぶりに台湾を訪問したばかりで、中国への反発姿勢を強めている。
チェコと中国の関係
チェコでは、旧チェコスロバキアで「ビロード革命」を率いて共産党政権を倒し、スロバキアが分離したあとも2003年までチェコの大統領を務めたハベル氏のもと、中国とは距離をとってきた。
しかし、2013年に就任したゼマン大統領は、中国との関係を重視する姿勢を鮮明にした。中国政府が2015年に「抗日戦争勝利70年」を記念するとして北京で行った軍事パレードに、欧米諸国のほとんどが首脳の出席を見送る中、ゼマン大統領はEU=ヨーロッパ連合の加盟国の国家元首として唯一、出席した。
翌年には、中国の習近平国家主席が、中国の国家主席として初めて、チェコを公式訪問してゼマン大統領と会談。ゼマン大統領は「チェコは中国にとってのEUの玄関口となる」として、関係を深めていく考えを示し、この年だけで中国から950億チェコ・コルナ、日本円で4400億円余りの投資が行われることになると成果を強調していた。
しかし、その後、約束されたほどの投資が実現されなかったため、国民の間でも不満が広がり、ことし1月にはゼマン大統領自身も失望を表明していた。
また、おととしにはチェコの情報当局が中国通信機器大手の「ファーウェイ」と「ZTE」の製品の使用は安全保障上の脅威があるとして警鐘を鳴らすなど中国に対する警戒感も高まっていた。
【参考資料】
①日経新聞電子版「チェコ代表団が台湾に到着 『卑劣な行為』と中国反発」(2020年8月30日)
②産経新聞「チェコ上院議長が台湾到着 90人の代表団、中国の反発必至」(2020年8月30日)
③NHK「異例の台湾訪問 チェコ上院議長ら約90人 中国反発 米国評価」(2020年8月30日)